共通A型B型

B型の工賃の決め方と工賃規程・積立金|全額分配の原則と工賃変動積立金の上限

公開: 2026年7月23日更新: 2026年8月19日

就労継続支援B型の工賃は、「いくら払うか」を国が決めていません。国の基準が定めているのは、生産活動の収入から必要経費を引いた額を全額分配すること1人当たりの平均額が月3,000円を下回らないこと年度ごとに目標水準を設定して利用者と都道府県に示すこと、そして自立支援給付費を工賃の原資にしないことの4点だけです[^1]。個々の利用者への配分方法(均等割か、作業時間や出来高に応じるか)は事業所が自ら決め、規程として文書化する領域になります。

本記事では、工賃の決め方の法的な枠組みと、剰余が出たときに使える2つの積立金(工賃変動積立金・設備等整備積立金)の条件を、一次資料の記載どおりに整理します。平均工賃月額の計算方法そのものは「B型の平均工賃月額の計算方法」を参照してください。

国が定めている4つのルール(結論)#

指定基準(平成18年厚生労働省令第171号)第201条は、B型の工賃について次のとおり定めています[^1]。

内容
第1項生産活動に係る事業の収入から必要な経費を控除した額に相当する金額を工賃として支払わなければならない
第2項利用者それぞれに支払われる1月当たりの工賃の平均額は3,000円を下回ってはならない
第3項利用者の自立した日常生活・社会生活を支援するため、工賃の水準を高めるよう努めなければならない
第4項年度ごとに工賃の目標水準を設定し、目標水準と前年度の平均額を利用者に通知するとともに都道府県に報告しなければならない

加えて、A型の規定である第192条第6項が第202条により準用され、読み替えによって**B型の工賃も「支払いに要する額は、原則として、自立支援給付をもって充ててはならない」**とされています(災害その他やむを得ない理由がある場合を除く)[^1]。工賃の原資は生産活動の収入であって、報酬(訓練等給付費)ではないという構造です。

3,000円を満たさない事業所には重点的な指導監査が実施され、指導後も改善の見込みがない場合は地域活動支援センターへの移行や、法に基づく勧告・命令等の措置が講じられます[^2]。

A型の場合との違い#

A型では、雇用契約を締結した利用者に支払うのは賃金であり、「生産活動に係る事業の収入から必要な経費を控除した額が、利用者に支払う賃金の総額以上となるようにしなければならない」(第192条第2項)という形で規定されています[^1]。雇用契約を締結していない利用者に対しては工賃を支払い、この工賃の平均額にも3,000円の下限があります(同条第3項・第5項)[^1]。A型の賃金要件は「A型の賃金要件」で扱っています。

「工賃」の範囲と経費の考え方#

工賃実績報告の取扱いとして、工賃の範囲は次のように定義されています[^2]。

ここでいう工賃とは、工賃、給与、手当、賞与その他名称を問わず、事業者が利用者に支払うすべてのものをいう。

つまり、賞与・皆勤手当などの名目で支払っても工賃に含まれます。「基本の工賃は低いが別名目の手当がある」という設計にしても、平均工賃月額や3,000円基準の計算からは外れません。

控除できる経費についても、同通知は**「生産活動に係る事業に必要な経費(利用者に支払う工賃を除く。)」**と明示しています[^2]。工賃そのものを経費に含めて差し引く(=分配前に工賃を引く)という循環した計算はできません。

原価の把握方法は、就労支援事業会計処理基準が定めています。就労支援事業を行う事業所は、法人本部と就労支援事業の経理区分を設け、多機能型では各事業ごとに事業区分を設けたうえで、就労支援事業別事業活動収支内訳表と、その明細としての就労支援事業製造原価明細表・販売費及び一般管理費明細表を作成するものとされています[^3]。製造に携わる利用者の工賃は製造原価に、販売に携わる利用者の工賃は販売費及び一般管理費に計上する、という区分も同基準に示されています[^3]。

工賃規程(配分ルール)は事業所が定める#

個々の利用者への配分方法について、国の基準・通知に定めはありません。 指定基準にあるのは前掲の第201条(全額分配・3,000円・目標水準)だけで、時給制にするか日額制にするか、作業能力をどう評価して差をつけるかは事業所の裁量です。裏を返せば、根拠を説明できる規程を自前で用意する必要があります。

運営規程の記載事項を比べると、この差がはっきりします。

運営規程の根拠条文工賃・賃金の記載義務
A型第196条の2あり。第6号で「指定就労継続支援A型の内容(生産活動に係るものに限る。)、賃金及び第192条第3項に規定する工賃並びに利用者の労働時間及び作業時間」を定める[^1]
B型第89条(第202条により準用)なし。第89条の各号に工賃の項目は含まれない[^1]

B型は運営規程の必須記載事項に工賃が挙げられていないため、工賃の算定・支払方法は別途「工賃規程」「工賃支給規程」等として整備し、第201条第4項の目標水準の通知とあわせて利用者に説明する運用が実務上の標準になります。指定申請や運営指導の際に提出を求められる書類は指定権者ごとに異なるため、様式の要否は事業所所在地の都道府県・市の手引きで確認してください。

規程に落とすべき論点は、少なくとも次のとおりです(いずれも国が内容を定めていない=事業所が決める事項)。

  • 支給の単位(時給・日額・月額・出来高のいずれか、またはその組み合わせ)
  • 作業時間や作業内容による差の付け方と、その評価を誰がいつ行うか
  • 欠勤・遅刻・早退や、施設外就労・在宅利用の場合の取扱い
  • 支払日・支払方法(口座振込か現金か)と、利用者への明細の交付
  • 年度ごとの目標工賃水準の設定手続と、利用者への通知方法(第201条第4項の履行)

剰余が出たとき|2つの積立金#

工賃は全額分配が原則のため、就労支援事業には原則として剰余金は発生しません[^3][^4]。そのうえで、将来にわたって安定的に工賃を支給し、また事業を安定的・円滑に継続するために、特定の目的に限って積み立てが認められています。

社会福祉法人については社会福祉法人会計基準の運用上の留意事項19(3)に、法人種別を問わない就労支援事業一般については就労支援事業会計処理基準(法人の種別に関係なく就労支援事業を実施する全ての法人が適用する会計処理の取扱いとして策定されたもの)に規定があります[^3][^4]。積立額・上限額の数値は両者で同一で、勘定科目の呼称(積立預金/積立資産)など会計基準の違いによる表現差があります。

共通の前提条件#

  • 理事会の議決に基づいて計上すること[^3][^4]
  • 積立金を計上する場合は、同額の積立資産(積立預金)を計上してその存在を明らかにすること[^3][^4]
  • 当該年度の利用者賃金・利用者工賃の支払額が、前年度の支払実績額を下回らない場合に限り計上できること[^3][^4]

3つ目が実務上の急所です。工賃を減らして生まれた余剰は積み立てられません。

工賃変動積立金#

将来、一定の工賃水準を下回ったときの補填に備える積立金です[^3][^4]。

項目内容
各事業年度における積立額過去3年間の平均工賃の10%以内
積立額の上限額過去3年間の平均工賃の50%以内
保障すべき工賃水準過去3年間の最低工賃(天災等により工賃が大幅に減少した年度を除く)
取り崩し上記の水準を下回った年度に、理事会の議決に基づき積立金・積立資産を取り崩して工賃を補填し、補填された工賃を利用者に支給する

設備等整備積立金#

設備等の更新や、新たな業種への展開のための設備導入に備える積立金です[^3][^4]。

項目内容
各事業年度における積立額就労支援事業収入の10%以内
積立額の上限額就労支援事業資産の取得価額の75%以内
取り崩し設備等の更新・新たな業種への展開のための設備等を導入した場合に、対応する積立金・積立資産を取り崩す
留意点積み立てに当たっては、施設の大規模改修への国庫補助や高齢・障害者雇用支援機構の助成金に留意すること

流用の禁止と繰替使用#

積立金は特定の目的のために一定の条件の下で認められるものなので、その他の目的のための支出への流用は認められません(ここでいう流用とは、積立金の取り崩しではなく、積立金に対応して設定した積立資産の取崩しを指します)[^3][^4]。

例外は資金繰りの一時的な手当てだけです。自立支援給付費収入は請求・審査に時間を要し、事業の実施月から見て2か月以上遅延する場合が想定されることから、このような場合に限り積立金に対応する資金の一部を一時繰替使用できます。ただし繰り替えて使用した資金は自立支援給付費収入により必ず補填し、積立金の目的の達成に支障を来さないようにしなければなりません[^4](就労支援事業会計処理基準では同じ規定が「利用料収入」の受取遅延として書かれています[^3])。

株式会社・合同会社が運営するB型にも適用されるのか#

適用されます。 就労支援事業会計処理基準は、まさにこの問いに答えるために作られた基準です。旧来の授産施設会計処理基準は社会福祉法人のみを適用対象としていましたが、障害者自立支援法で就労支援事業の運営主体が緩和され、社会福祉法人以外の法人でもサービス提供が可能になったことを受けて、**「法人の種別に関係なく、就労支援事業を実施する全ての法人が適用する会計処理の取扱いを明示するために」**取りまとめられたと、通知自身が策定趣旨に明記しています[^3]。

したがって、株式会社・合同会社・NPO法人などが運営するB型事業所にも、次の規律がそのまま前提になります。

  • 就労支援事業の経理区分の設定と、就労支援事業別事業活動収支内訳表・製造原価明細表・販売費及び一般管理費明細表の作成[^3]
  • 全額分配の原則(指定基準第201条は法人形態を問わず指定事業者に適用されます)[^1]
  • 工賃変動積立金・設備等整備積立金の積立額・上限額・取り崩し条件[^3]

なお、基準の条文は社会福祉法人の機関設計を前提に「理事会の議決」等の文言で書かれています。株式会社等における意思決定機関(取締役会等)での読み替えや、就労支援事業別の計算書類の具体的な様式は、指定権者・所轄庁の運用によるため、決算処理の前に確認してください。

工賃実績の報告と公表#

年度が終わったら、工賃実績を報告します[^2]。

  • 各事業者は、毎年4月に、都道府県に対し前年度の工賃実績(前年度の工賃実績の平均月額)を報告する
  • 都道府県は、報告された工賃実績を毎年6月末日までに国(障害福祉課)へ報告する
  • 都道府県は、提出された工賃実績と都道府県全体・圏域全体の平均工賃額を、広報紙・ホームページ・WAM NET等により幅広く公表する

報告する平均工賃月額は令和6年度報酬改定で計算方法が見直されており、①前年度の工賃支払総額 ②前年度の開所日1日当たりの平均利用者数(延べ利用者数÷年間開所日数)③①÷②÷12月、の手順で算出します[^2]。この数値は基本報酬の区分にも直結します(「B型の報酬体系」「B型 平均工賃月額計算機」)。なお、目標工賃と報酬の関係は「目標工賃達成加算」を参照してください。

実務チェックリスト#

  • 工賃の配分方法を定めた規程があり、支給単位・評価方法・支払日まで書かれているか
  • 手当・賞与など別名目の支払いも「工賃」として集計しているか(名称を問わずすべてが工賃)
  • 経費の計算で、利用者に支払う工賃を経費に含めて差し引いていないか
  • 法人本部と就労支援事業の経理区分を設け、製造原価明細表・販売費及び一般管理費明細表を作成しているか
  • 年度ごとの目標工賃水準を設定し、前年度の平均額とあわせて利用者に通知し、都道府県に報告したか(第201条第4項)
  • 積立金を計上する年度に、利用者への工賃・賃金の支払額が前年度実績を下回っていないか
  • 積立金と同額の積立資産(積立預金)を計上し、理事会の議決を議事録で残しているか
  • 積立資産を目的外の支出に流用していないか(給付費入金の遅延に伴う一時繰替使用は必ず補填したか)
  • 毎年4月に前年度の工賃実績を都道府県へ報告したか

よくある質問#

Q. 工賃は利用者ごとに差をつけてよいのですか?#

差をつけること自体を禁じる規定はありません。国の基準が定めているのは総額の分配(収入−必要経費の全額)と平均額の下限(月3,000円)であり、個々の配分方法は事業所が定めます[^1]。ただし第201条第2項の平均額は利用者それぞれに支払われる1月当たりの工賃の平均額で見るため、一部の利用者に偏らせた結果として基準を割り込まないよう注意が必要です。

Q. 賞与や皆勤手当は工賃に含まれますか?#

含まれます。工賃とは「工賃、給与、手当、賞与その他名称を問わず、事業者が利用者に支払うすべてのもの」と定義されています[^2]。

Q. 訓練等給付費(報酬)から工賃を支払ってもよいですか?#

原則としてできません。指定基準第192条第6項(B型は第202条による準用)で、工賃の支払いに要する額は原則として自立支援給付をもって充ててはならないとされています。例外は災害その他やむを得ない理由がある場合です[^1]。

Q. 生産活動で黒字が出たら、そのまま法人の他の事業に使えますか?#

使えません。就労支援事業の収入から必要経費を控除した額は工賃として分配するのが原則で、剰余は工賃変動積立金・設備等整備積立金という特定の目的の積立てに限って認められます。積立金に対応する積立資産を他の目的の支出に流用することは認められていません[^3][^4]。

Q. 積立金はいくらまで積めますか?#

工賃変動積立金は各年度の積立額が過去3年間の平均工賃の10%以内、上限額は過去3年間の平均工賃の50%以内です。設備等整備積立金は各年度の積立額が就労支援事業収入の10%以内、上限額は就労支援事業資産の取得価額の75%以内です[^3][^4]。

Q. 工賃を前年より減らした年度でも積立てはできますか?#

できません。積立金は「当該年度の利用者賃金及び利用者工賃の支払額が、前年度の利用者賃金及び利用者工賃の支払実績額を下回らない場合に限り」計上できるとされています[^3][^4]。

Q. 株式会社が運営するB型でも積立金のルールは守る必要がありますか?#

あります。就労支援事業会計処理基準は「法人の種別に関係なく、就労支援事業を実施する全ての法人が適用する会計処理の取扱い」として策定されたものであり[^3]、社会福祉法人以外の法人(株式会社・合同会社・NPO法人等)が運営するB型にも適用されます。全額分配の原則(指定基準第201条)も指定事業者すべてに適用されるため、営利法人だからといって生産活動の剰余を自由に処分できるわけではありません[^1]。

Q. 工賃規程は指定申請時に必要ですか?#

国の基準は工賃規程そのものを必須書類として定めていません(B型の運営規程の必須記載事項にも工賃は含まれません)[^1]。一方で、指定申請や運営指導で工賃の支給規程・算定根拠の提示を求める指定権者は多いため、実際の要否は所在地の都道府県・指定都市・中核市の手引きで確認してください。

制度上の根拠#

  • 指定基準第201条(工賃の支払等)・第192条(賃金及び工賃)・第196条の2(A型の運営規程)・第202条(準用)[^1]
  • 就労系留意事項通知(工賃の支払い等・工賃実績の報告)[^2]
  • 就労支援の事業の会計処理の基準(経理区分・原価明細・積立金)[^3]
  • 社会福祉法人会計基準の運用上の留意事項 19(3)(就労支援事業に関する積立金)[^4]

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